【ダイハツ ムーヴキャンバス】客観的データに基づく総合評価
ダイハツ ムーヴキャンバスは、NASVA(自動車事故対策機構)による2022年度のJNCAP自動車安全性能評価において、総合で4つ星(161.04/199点、得点率80%)を獲得しました。総合5つ星の満点評価には届かなかったものの、事故を未然に防ぐための「予防安全性能」のテストでは最高ランクとなるAランク(88%)と高い実力を示しています。一方で、万が一の衝突時に乗員をどれだけ守れるかを評価する「衝突安全性能」はランクB(80%)にとどまっており、極端な強みと明確な弱点がデータから浮き彫りになっています。
ムーヴキャンバスはこんなユーザーにおすすめ
- 【夜間の帰宅や塾の送迎で暗い住宅街を走るユーザー】:街灯のない暗い夜間条件での歩行者に対する被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)テストにおいて、大部分の速度域で衝突を回避し、夜間テスト全体で52.1/55点という高い評価を得ています。
- 【スーパーや病院など、狭く混雑した駐車場を利用する機会が多いユーザー】:日本特有の事故を想定したペダル踏み間違い時の加速抑制テストにおいて、前進・後進ともに障害物を検知して完全に衝突を回避し、満点(2.0/2点)を獲得しています。
- 【後席に人を乗せる機会が少なく、主に1〜2名で乗車するユーザー】:車体の一部を壁にぶつけるオフセット前面衝突試験において、後席乗員のシートベルトが肩から外れてズレる現象が確認され、後席の保護性能の総合点が66.7%と低迷しています。
JNCAPの厳しいテストからわかるムーヴキャンバスの「強み」
ムーヴキャンバスの最大の武器は、日常的なニアミスを防ぐ優秀な予防安全技術です。
まず、先行する車に対する被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)テストでは、時速10kmから60kmという幅広い速度域においてしっかりと衝突を回避し、33点満点を獲得しました。これは日本の一般道における渋滞時の追突防止などに非常に有効な結果だと言えます。
また、日本の交通環境に特化したJNCAPならではの項目である「ペダル踏み間違い時の加速抑制」においても、前方と後方の両方で完璧に作動し、満点評価(2.0/2点)を得ています。駐車場などで起きやすい「アクセルとブレーキの踏み間違い」による暴走事故リスクを大きく減らすことができるデータとなっています。
さらに、車線からはみ出そうになった際にハンドル操作をアシストする「車線逸脱抑制装置」も、時速60kmおよび70kmのテストにおいて基準に適合すると判定され、満点(16点/16点)を獲得しています。これにより、高速道路やバイパスでのドライブ時におけるふらつき防止に役立ちます。対向車の幻惑を防ぐ自動防眩型の「高機能前照灯」も満点(5.0/5点)となっており、夜間の視界確保と周囲への配慮を両立しています。
万が一の事故を想定したテストでも、側面から時速55kmで台車を衝突させる「側面衝突試験」においては、運転席の頭部から腰部まで全ての部位への衝撃評価で満点を獲得し、100%(12.00/12点、レベル5)の完璧な乗員保護性能を証明しています。また、歩行者と接触してしまった際のダメージを計測する「歩行者保護性能評価」では、歩行者の脚部への保護能力で満点(4.00/4点)を獲得しています。
自動車安全性能2022試験映像:ダイハツ ムーヴ キャンバス
出典:ナスバ((独)自動車事故対策機構)
購入前に知っておくべきムーヴキャンバスの「注意点と弱点」
予防安全機能が全体的に優秀な反面、購入前に必ず理解しておくべき衝突安全性能と特定の予防安全機能における明確な弱点がデータに表れています。
第一に、時速55kmで壁に正面衝突する「フルラップ前面衝突試験」において、運転席のダミー人形の胸部に加わったダメージが大きく、胸部変位量という項目の得点が0点(0.00/4.00点)と非常に厳しい評価を受けています。その結果、この試験における運転席全体の保護評価は58.8%(7.05/12点)にとどまっており、万が一の正面衝突時に運転手へ強い負荷がかかることがわかります。
第二に、時速64kmで車体前部の運転席側の一部を壁に衝突させる「オフセット前面衝突試験」では、後席に座っている乗員のシートベルトが、衝突の衝撃によって本来の肩の位置から上腕部へと外れてズレてしまう現象が確認されました。JNCAPの公式資料でも「胸部に大きなダメージを与えるおそれがある」と特記されており、後席のトータル保護評価が66.7%(8.00/12点)に落ち込んでいます。
第三に、予防安全機能のなかでも「自転車に対する自動ブレーキ」の評価が著しく低い点に注意が必要です。自転車への対応テスト全体で9点満点中わずか1.0点(レベル1)となっており、特に自転車が横断してくるような飛び出しのシチュエーション(CBF、CBNOシナリオ)では、全ての速度域で自動ブレーキの得点が0点となっています。交差点などでの自転車の急な飛び出しに対しては、自動ブレーキによる衝突回避能力が低いことを客観的なデータが示しています。
最後に、「事故自動緊急通報装置」が装備されていない(評価点0点)ため、重大事故発生時に自動でオペレーターに繋がるシステムがない点も購入前に把握しておくべき事実です。
編集長の視点:ムーヴキャンバス
同クラスのライバルといえば、スズキ「ワゴンRスマイル」や、なにかと比較の的になるホンダ「N-BOX」あたりが思い浮かぶ。こうした最新の軽自動車勢と並べてみると、ムーヴキャンバスの安全性能はなかなか興味深い顔つきを見せる。予防安全の領域では互角、いやそれ以上の実力を見せつける一方で、衝突安全性能に関してはやや分が悪いというのが実情だ。
フルラップ前面衝突試験では、運転席まわりの胸部ダメージが目立って評価を落とした。軽自動車という厳しい寸法制約のなかで、両側スライドドアという重量物と構造上のハンデを背負ったパッケージングの難しさが、ここに透けて見える。ダイハツが誇る新世代プラットフォーム「DNGA」によって骨格そのものは高剛性化が進められているものの、いかんせんフロントノーズ―つまりクラッシャブルゾーン―が極端に短い。前面衝突のエネルギーを十分に吸収・分散しきれず、その分がキャビン内の乗員への衝撃荷重として表れてしまった、というのが実態に近いだろう。ただし側面衝突では満点を獲得しており、ボディ全体が弱いわけでは決してない。あくまで「前方からの強い衝撃をどう逃がすか」という一点に、構造的な限界が集中していると見るべきだ。
もうひとつ気になるのが、オフセット前面衝突試験で明らかになった後席シートベルトのズレだ。ここには、いまの軽自動車市場が置かれている設計思想の縮図がのぞく。市場が何より求める「広い室内空間」や「多彩なシートアレンジ」を優先すれば、後席のシート形状やシートベルトアンカーの配置には、どうしてもしわ寄せが来る。衝突時の乗員拘束ジオメトリーを最適化しきれなかった可能性は高く、限られたスペースで居住性と安全性を完全に両立させることの難しさを、あらためて突きつける結果となった。
そして予防安全性能のスコアが高低くっきり分かれた点は、搭載システム「スマートアシスト」のセンサー特性とその画像処理アルゴリズムに理由を求められそうだ。ステレオカメラは夜間の歩行者検知・回避ではかなりの精度を発揮する一方、自転車の飛び出しに対してはスコアが伸び悩んだ。横方向から高速で近づいてくる対象を瞬時に認識・予測する演算処理が、テスト当時のシステム世代ではまだ追いついていなかった、というのが妥当な見立てだろう。
これらのデータを総合すると見えてくるのは、いざという過酷な衝突から乗員を守り抜く「重装甲」なクルマとしてのムーヴキャンバスの姿ではない。むしろ市街地の低速・中速域で、ニアミスの芽を未然に摘み取ることに開発リソースを注ぎ込んだ、都市型コミューターとしての性格が色濃くにじみ出ているクルマ―それが今のムーヴキャンバスの実像だと言えそうだ。
ダイハツ ムーヴキャンバスのJNCAP テスト結果データ
日本基準(NASVA / JNCAP)
| 総合評価 | ★★★★☆ 80% (161.04 / 199点) |
| 衝突安全性能 | Bランク 80% (80.62点 / 100点) |
| 予防安全性能 | Aランク 88% (80.42点 / 91点) |
| テスト実施年度 | 2022年度 |
※注:本車種は日本国内専用モデルのため、Euro NCAP(欧州)やIIHS(米国)などの海外機関での衝突試験は実施されていません。
※注:評価データおよび考察はNCAP試験当時のものです。安全装備の性能は随時アップデートされるため、最新情報は必ずメーカー公式サイトにてご確認ください。
