客観的データに基づく総合評価
※本記事は、基本構造を完全に共有する兄弟車「ヴォクシー(VOXY)」のJNCAP試験データ(2022年度)に基づいて解説しています。海外仕様とのボディタイプの差異等については、海外NCAPのデータが存在しないため確認できません。
こんなユーザーにおすすめ
- 【塾帰りの送迎で暗い夜道を走るユーザー】:対歩行者の被害軽減ブレーキが「街灯のない夜間」という極めて厳しい条件でも満点を獲得しており、視認性の悪い状況下での接触リスクを大幅に低減しています。
- 【自転車の飛び出しが多い住宅街を日常的に走るユーザー】:対自転車の自動ブレーキテストにおいて、昼夜問わず多様な速度域・角度からの飛び出しに対して満点評価であり、生活道路での不測の事態に強い恩恵を受けられます。
- 【帰省などで長距離の高速道路運転を頻繁に行うユーザー】:時速60〜70kmでの車線逸脱抑制装置や、対車両への自動ブレーキが完璧に機能し、ドライバーの疲労による一瞬の不注意をシステムが確実にカバーしています。
JNCAPの厳しいテストからわかる「強み」
トヨタ ヴォクシー / ノアの安全性能における最大の強みは、日本のNASVA(JNCAP)が実施したテストにおいて、予防安全性能評価で「100%(91.00/91点)」の完全な満点を獲得している点に尽きます。事故を未然に防ぐためのシステムが、現在の日本基準において最高峰のレベルにあることが客観的なデータから証明されています。
具体的にデータを見ると、被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)の性能が非常に際立っています。対車両へのブレーキテストでは、時速60kmという高い速度域での接近に対しても衝突を完全に回避しています。さらに注目すべきは、「街灯のない暗い夜間」での対歩行者テストにおいて、時速60kmからのフルブレーキングでも確実に停止し、55.0/55点という満点を獲得している事実です。これは、夜間の帰宅時や塾の送迎など、ドライバーの視界が極端に悪化する状況下において、システムが歩行者を確実に見つけ出し、重大事故を回避する強力なサポートとなることを意味します。
また、自転車に対する衝突回避テストにおいても満点(9.0/9点)を獲得しています。見通しの悪い交差点などで、死角から急に飛び出してくる自転車が多い日本の住宅街や狭い生活道路を日常的に走るドライバーにとって、この優れた検知能力と制動力は非常に大きな安心感をもたらします。
加えて、日本特有の事故形態である「ペダル踏み間違い」への対策も万全です。ペダル踏み間違い時加速抑制装置のテストでは、前進・後進ともに障害物までわずか1.0mという至近距離からでも、超音波センサーが的確に障害物を検知し、衝突せずに停止できていることが確認されました(2.0/2点満点)。駐車場での取り回しや、コンビニなどの店舗への突っ込み事故をシステムが力強く防いでくれます。
長距離ドライブを支える機能として、車線逸脱抑制装置(LDP/LDWS)も時速60kmおよび70kmのテストで車線の逸脱量を0.5m以下に抑え込み、満点(16.0/16点)を獲得しています。高速道路などでの運転疲労から生じる一瞬の「うっかりミス」をシステムが安全な方向へ修正してくれるため、レジャーや帰省時の強い味方となります。さらに、万が一の事故発生時に自動でオペレーターに接続される「事故自動緊急通報装置(先進型)」も満点評価であり、事故発生後の迅速な救命活動にも貢献する隙のない予防安全体制が構築されています。
自動車安全性能2023試験映像:トヨタ ヴォクシー
出典:ナスバ((独)自動車事故対策機構)
購入前に知っておくべき「注意点と弱点」
一方で、万が一の事故の際の乗員保護能力を示す衝突安全性能においては、全体のスコアが87%(87.44/100点)の「ランクA」と十分に高い水準であるものの、いくつかの弱点・注意点がデータから浮き彫りになっています。購入を検討する際には、これらの特性を客観的に理解しておくことが重要です。
まず、時速55kmで壁に正面衝突する「フルラップ前面衝突試験」において、運転席のダミー人形の下肢部(太もも周辺)への荷重ダメージが記録されており、この項目で得点を落としています(9.91/12点)。また、運転席の胸部への負荷もわずかに見られました。車両のフロント部分が短いミニバンという構造上、前方からの強い衝撃が足元に伝わりやすい傾向がデータに表れています。
次に、時速64kmで車両の運転席側の一部を壁に衝突させる「オフセット前面衝突試験」においては、後席(2列目)乗員の胸部へのダメージ(胸部変位量)が確認されており、後席のスコアが10.92/12点とわずかに減点されています。ヴォクシー / ノアはファミリーカーとして後席に子どもや家族を乗せる機会が圧倒的に多いため、後席乗員に対しても一定の衝撃が加わる可能性がある点は、留意しておくべき事実です。
また、後続車から追突された際の「後面衝突頸部保護性能試験」では、運転席・助手席ともに首(頸上部)の屈曲による負荷が確認され、10.71/12点(89.3%)にとどまっています。シートの構造上、追突事故時の「むち打ち」リスクを完全にゼロにできているわけではないため、正しいシートポジションとヘッドレストの高さ調整を日頃から適切に行うことが求められます。(※なお、側面衝突試験については12.00/12点の満点であり、横からの衝撃には極めて強いことが実証されています)。
最後に、日常的な安全確保の観点から注意したいのが「シートベルトリマインダー(非着用時の警告機能)」の評価です。テストデータによると、後席乗員に対する警告音(後席ベルト警報および走行中にベルトを外した際のチェンジオブステータス警報)の項目が0.00点となっています。運転席のディスプレイには警告が表示されますが、後席の乗員自身には警告音が直接届きにくい(または機能がない)仕様となっているため、子どもが走行中に誤ってシートベルトを外してしまっても、本人は音で気づけません。運転手が目視や声かけによって、後席のベルト着用状態を能動的に管理する必要があります。
編集長の視点:ヴォクシー / ノア
セレナやステップワゴンがしのぎを削るMクラスミニバン市場で、ヴォクシー/ノアが出した「予防安全性能100%」というJNCAPのスコアは、一歩抜けた水準にある。ライバル2車種も高度な先進運転支援システム(ADAS)を備え、安全評価は決して低くない。それでもヴォクシー/ノアは、街灯のない夜道での歩行者検知や、死角から飛び出してくる自転車への対応といった厳しい条件で、一つの減点も許さなかった。事故の芽を事前に摘む力という点では、いまの国内ミドルサイズミニバンの最右翼にいる。これはテスト結果がはっきり示している。
その背景にあるのが、TNGA(GA-Cプラットフォーム)の採用に伴う電子アーキテクチャの全面刷新だ。ミリ波レーダーの検知範囲は広がり、単眼カメラも広角化された。ハードの進化に加えて、「交通事故死傷者ゼロ」を掲げるトヨタの設計思想が色濃く出ている。悪条件が重なる極限のテストでも、システムはためらわずに確実なブレーキをかける。これはカタログスペックを追っただけでは作れない。膨大な実車走行データを積み重ね、制御アルゴリズムが成熟してきた結果だろう。
もっとも、死角のない優等生というわけでもない。フルラップ前面衝突試験での運転席の下肢への荷重や、オフセット衝突での後席胸部へのダメージには、Mクラスミニバンに共通する宿命が透けて見える。全長4.7mという限られた枠の中で室内空間を最大限に広げれば、フロントノーズ、つまりクラッシャブルゾーンは短くならざるを得ない。TNGAの強固な環状骨格のおかげで側面衝突は満点を取っているが、正面から受ける激しいエネルギーを短いエンジンルームだけで吸収し切るのは難しく、一部は室内に伝わってしまう。データに表れているのは、そんな物理的な限界だ。居住性を最優先するミニバンならではのジレンマと言っていい。
こうして見ると、ヴォクシー/ノアの安全設計の考え方は明快だ。構造上どうしても不足する衝撃吸収ゾーンを、世界トップレベルの予防安全技術で補い、そもそも衝突させない。後席シートベルトの警告音が省かれているあたりにはコスト配分の跡もうかがえるが、車全体のアプローチとしては極めて合理的である。
ただし、システムに任せきりでいいわけではない。ミニバン特有の構造的な弱点と、システムの限界を理解したうえで、正しい着座姿勢を保ち、後席を目視で確認する。そうした基本をドライバー自身が徹底して、はじめてこの車の安全性能は完結するのだと思う。
JNCAP テスト結果データ
日本基準(NASVA / JNCAP)
| 総合評価 | ★★★★★ 93%(186.44/199ポイント) |
| 衝突安全性能 | Aランク 87 % (87.44点 / 100点) |
| 予防安全性能 | Aランク 100 % (91.00点 / 91点) |
| テスト実施年度 | 2022年度 |
東南アジア基準(ASEAN NCAP)
未実施(テスト待ち)
※注:本車種は日本市場を主力とするモデルのため、Euro NCAP(欧州)やIIHS(米国)などの海外機関での衝突試験は実施されていません。
※注:評価データおよび考察はNCAP試験当時のものです。安全装備の性能は随時アップデートされるため、最新情報は必ずメーカー公式サイトにてご確認ください。
