【マツダ ロードスター】客観的データに基づく総合評価

マツダ ロードスター(海外名:MX-5)は、日常の移動から週末のレジャーまで「運転する歓び」を純粋に楽しめる軽量なオープン2シータースポーツカーです。一般的に、軽量でルーフを持たないスポーツカーは、衝突時の衝撃吸収や乗員保護において不利な側面があると思われがちです。しかし、客観的なデータを確認すると、国内外の厳しい安全性能テストにおいて一定の高い水準を満たしていることがわかります。本稿では、日本国内のJNCAP(自動車事故対策機構)およびオーストラリアのANCAP(2016年評価)の公式テスト結果に基づき、本車両の安全性能における強みと弱点を明確にし、実際の日本の交通環境においてどのような意味を持つのかを分析します。

ロードスターはこんなユーザーにおすすめ

  • 【週末の市街地や郊外のドライブを好むユーザー】:JNCAPの対歩行者(昼間)被害軽減ブレーキテストにおいて、60km/hの大人や40km/hの子供の飛び出しに対しても満点評価で衝突回避を達成しているため、歩行者や自転車の多い市街地でのリスクに備えたい層に適しています。
  • 【郊外の交差点や単独事故のリスクに備えたいドライバー】:ANCAPの側面衝突テストにおいて最高評価(16点満点中16点)、サイドポール衝突テストでも満点を獲得しており、交差点での出合い頭の事故や、スリップによる電柱などへの側方からの衝突に対する乗員保護性能が証明されているため。
  • 【前向き駐車を多用せず、自らのペダル操作を確実に行える層】:JNCAPのペダル踏み間違い時加速抑制装置のテストにおいて、前進時の対車両では衝突を回避できなかった(10km/hで衝突)というデータがあるため、コンビニや商業施設などでの前向き駐車時にシステムに依存せず、確実な目視とペダル操作ができるベテランユーザーに向いています。

各国の厳しいテストからわかるロードスターの「強み」

ロードスターの安全性能において最も特筆すべき点は、スポーツカー特有の低い車体構造でありながら、現代の交通環境に不可欠な予防安全機能(衝突被害軽減ブレーキ)と、側方からの衝突に対する乗員保護性能が極めて優秀である点です。

日本のJNCAPによるテストデータでは、前方カメラ等を活用した被害軽減ブレーキ(対歩行者:昼間)が非常に高い効果を発揮しています。このテストでは、初期速度10km/hから60km/hまでの幅広い速度域で大人のダミーに対する衝突回避に成功し、40km/hでの子供のダミーに対するテストでも確実に衝突を回避しました。その結果、25点満点の「Level 5/5」を獲得しています。日本の市街地のように見通しの悪い路地や、通学路などでの歩行者の予期せぬ飛び出しに対して、システムが強力にアシストし衝突の回避または被害の大幅な軽減を行ってくれることは、日常的に運転する上で大きな安心材料となります。

また、万が一の衝突時に乗員を守る構造面でも優秀な成績を残しています。JNCAPのフルラップ前面衝突試験(50km/h)においては、運転席の乗員保護性能で12点満点(100% Level 5/5)を獲得しました。ドライバーの頭部傷害値(HIC15)は基準値を大幅に下回る安全な範囲に収まっており、胸部への圧迫や頸部への負担も低く抑えられています。

一方、オーストラリアのANCAP(2016年評価)では、厳しいテストをクリアし総合5つ星(35.20/37点)を獲得しています。
ここで特に目を引くのが、側方からの衝撃に対する保護性能です。サイドインパクトテスト(50km/hで台車を側面に衝突させるテスト)では、頭部、胸部、腹部、骨盤へのダメージの全項目で満点(各4点、計16点満点)を獲得しました。さらに、車両が横滑りして電柱や立ち木に激突する状況を再現した過酷なサイドポールテストでも最高評価(2点満点)を得ています。サイドエアバッグ(頭部・胸部保護用)が的確に展開し、ルーフを持たない車体でありながら乗員の生存空間をしっかりと確保していることが証明されています。
また、スポーツカーは車高が低いため、歩行者と衝突した際に歩行者がボンネット上に乗り上げやすい特性がありますが、ロードスターにはアクティブボンネット(衝突時にボンネット後方を持ち上げて衝撃を吸収する機構)が備わっており、ANCAPの歩行者保護テストでも36点満点中33.72点(Good評価)という高いスコアをマークしています。

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出典:ナスバ((独)自動車事故対策機構)

購入前に知っておくべきロードスターの「注意点と弱点」

一方で、複数のテストデータからはいくつかの明確な弱点や注意点も浮かび上がっています。購入を検討する際は、安全評価を過信せず、以下の特性を正しく理解しておくことが重要です。

第一に、ANCAPの前面オフセット衝突試験(64km/hで車体前面の40%をバリアに衝突させるテスト)において明らかになった、運転席乗員の頭部への衝撃リスクです。このテストにおいて、衝突時にダミー人形(ドライバー)の頭部がAピラー(フロントガラスの支柱)に直接接触し、その後エアバッグを介してステアリングホイールに接触するという挙動が確認されました。これにより「不安定なエアバッグとの接触」として1点のペナルティ減点を受けています。オープンモデルである本車両は、衝撃を逃がす屋根の骨格を持たないため、万が一の衝突時に乗員の体が大きく揺さぶられやすい傾向があることがデータから示唆されています。シート位置が前すぎたり、不自然な姿勢で運転していたりすると、エアバッグの保護効果を十分に得られず、車内の硬いパーツに頭部を打ち付けるリスクが高まります。また、歩行者保護試験においてアクティブボンネットは全体的に良好に機能したものの、ボンネットの最前部および側面付近においては、歩行者の頭部保護が「Marginal(限界的)」レベルにとどまる箇所がある点も報告されています。

第二に、日本のJNCAPによる「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」のテストにおけるスコアの低さです。このテストでは、総合評価が2点満点中わずか0.8点にとどまりました。詳細なデータを確認すると、後進(バック)時の対車両や、前進時の対歩行者に対してはシステムが作動し衝突を回避できていますが、前進時の対車両(前方に車がいる状態でアクセルを誤って踏み込んだ場合)のテストにおいては衝突を回避できず、時速10kmでそのまま障害物に衝突したという結果が記録されています。コンビニエンスストアやスーパーの駐車場などで、フェンスや前の車に向かって前向き駐車をする場面において、「踏み間違えても車が勝手に止まってくれる」とシステムを過信することは極めて危険です。

なお、ボディタイプの差異についてですが、日豪のテスト車両はいずれも「ロードスター / MX-5」のオープンモデルであり、基本的な骨格構造に違いはありません。ただし、国内仕様のテストデータ(JNCAP)ではサイドカーテンエアバッグが「非装備」と表記されていますが、これはオープンカーという形状ゆえに屋根から展開するカーテンエアバッグが存在しないためです(代わりにシートから展開する頭部・胸部保護用のサイドエアバッグが装備されています)。

編集長の視点:ロードスター

同じクラスの国産スポーツカーであるトヨタ・GR86やスバル・BRZと比べると、マツダ・ロードスターの安全性能はかなり特異な立ち位置にあると言える。GR86やBRZはクローズドボディ(クーペ)なので、ルーフからCピラーにかけての構造を使って、衝突時のエネルギーを車体全体に分散させやすい。これに対してオープンモデルであるロードスターは、ルーフ構造による応力伝達が物理的にできない。それにもかかわらず、国内外の各種安全テストで、クーペモデルに匹敵する、あるいは部分的にはそれを上回るスコアを記録しているという事実は、ベースとなる車体下部の基本骨格がかなり高い水準で作り込まれていることを物語っている。

側面衝突やフルラップ前面衝突での高い乗員保護性能は、マツダが追い求めてきた軽量化と高剛性の両立を体現した骨格構造から読み解くことができる。ルーフを持たないこの車では、太く強固なサイドシル(ドア下部の骨格)やセンタートンネルを軸にしたフロア周りの補強によって、キャビンの変形を防ぐ独自の応力分散構造が組まれている。ANCAPの過酷なサイドポールテストで満点を獲得しているのも、この強固なフロア構造と、シート内蔵型サイドエアバッグの展開タイミングが、かなり緻密に計算・最適化されている結果と見ていい。

一方で、オフセット衝突試験における乗員頭部挙動の不安定さや、ペダル踏み間違い時のスコアが伸び切らない点は、軽量コンパクトなオープンモデルならではの構造的な制約と、メーカーの設計思想の両方に起因すると考えられる。衝突エネルギーを吸収するフロントのクラッシャブルゾーンが物理的に短いうえ、ルーフによるキャビン上部の支持もないため、局所的に強い衝撃(オフセット衝突など)が入ると、Aピラーなどの変形や乗員の揺さぶりを完全に抑え込むのは構造上どうしても難しくなる。またペダル踏み間違い時加速抑制装置が一部の条件で介入しきれないのは、センサー技術の限界という面もあるだろうが、それ以上に「運転操作の主体はあくまでドライバーにある」というマツダのスポーツカー哲学が反映されていて、システムが過度に介入してドライバビリティを損なわないよう、あえて抑えたチューニングにしている可能性が高い。

総じてこのデータから見えてくるのは、ロードスターが「ルーフを持たない軽量コンパクト車」という物理的な制約を抱えながらも、現代の安全基準を満たすためにかなり高度なエンジニアリングが施された車だ、という事実だ。オープン2シーターゆえの弱点は確かにあるものの、そのリスクがどこにあるかを正しく理解し、適切なドライビングポジションを保ち、ペダル操作を確実に行うことで、この車が持つ安全性能は最大限に引き出される。安全装備にすべてを委ねるのではなく、ドライバー自身に適切な操作と責任を求めるという点でも、この車の安全設計はピュアスポーツカーとしての本質を貫いていると言えるだろう。

マツダ ロードスターの主要5大NCAP テスト結果データ

日本基準(NASVA / JNCAP)

総合評価N/A
衝突安全性能Level 5/5(フルラップ前面衝突運転席)
予防安全性能:被害軽減ブレーキ(対歩行者:昼間)Level 5/5
予防安全性能:ペダル踏み間違い時加速抑制装置Level 3/5
テスト実施年度2025年度

🔗JNCAP公式評価ページ(詳細ページ)はこちら

※注:従来のJNCAPでは後席がない2シーター車は総合評価(★評価)の対象外でしたが、2025年度から一部項目を試験・公表するようになりました。現行国内モデルはi-ACTIVSENSEなど予防安全装備が充実しており、試験結果は現行仕様に近いものです。フルの総合★評価ではない点に注意。

欧州基準(Euro NCAP)

※注:評価は有効期限切れ(Rating Expired)

米国基準(IIHS / NHTSA)

未実施

オーストラリア基準(ANCAP)

総合評価★★★★★
成人乗員保護※パーセンテージ表記なし(総合スコア 35.20/37点)
小児乗員保護N/A
歩行者保護33.72/36点(Good)
安全補助装置N/A
テスト実施年度2016年

🔗ANCAP公式評価ページ(詳細ページ)はこちら

※注:評価は2015~2023年頃の仕様に基づきます。2024年以降の現行モデルは再評価されておらずUnratedです。日本国内現行モデルとは装備・仕様差がある可能性があります(特に予防安全系)。

東南アジア基準(ASEAN NCAP)

未実施

※注:評価データおよび考察はNCAP試験当時のものです。安全装備の性能は随時アップデートされるため、最新情報は必ずメーカー公式サイトにてご確認ください。

メーカー公式ページ

https://www.mazda.co.jp/cars/passenger/roadster