【スズキ ハスラー】客観的データに基づく総合評価
スズキ・ハスラー(2020年度JNCAP評価)は、総合得点146.93点(190点満点)、総合評価「星4」を獲得しました。衝突安全性能で77%(ランクB)、予防安全性能で84%(ランクB)という成績を残しており、現代の軽自動車として堅実な安全性を備えていることが分かります。日本の複雑な交通環境を考慮したJNCAPならではの詳細なテスト結果を分析すると、この車が持つ明確な得意分野と、ドライバーがシステムを補うべき弱点がはっきりと見えてきます。以下に、客観的なデータに基づく詳細な分析を解説します。
ハスラーはこんなユーザーにおすすめ
- 【スーパーの駐車場など狭い場所での後退切り返しが多いドライバー】:リアバンパーに内蔵された超音波センサーによる後方誤発進抑制機能が満点評価を獲得しており、バック時の障害物に対する衝突回避を強力にサポートします。
- 【主に1〜2名で乗車し、街乗りをメインとする通勤・買い物層】:側面衝突テストや後面衝突テストにおいて、運転席および助手席の乗員保護性能が極めて高い最高レベル(レベル5/5)の評価を獲得しています。
- 【夕暮れ時や夜間の住宅街を走る機会が多いドライバー】:前方のステレオカメラが機能し、街灯のある夜間環境下でも横断歩行者を検知して自動ブレーキを効果的に作動させるなど、日本の生活道路に適した予防安全性能を持っています。
JNCAPの厳しいテストからわかるハスラーの「強み」
ハスラーは、予防安全性能評価において84%(69.52/82点)という高いスコアを記録し、日常運転における事故を未然に防ぐ能力の高さを証明しました。
日本の道路環境において特に心強いのが、前方に搭載された「ステレオカメラ」と後方に搭載された「超音波センサー」による被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)の優秀さです。他車に対する自動ブレーキのテスト(対車両)では、時速10kmの徐行状態から時速60kmでの巡航状態までのすべての速度域において完全に衝突を回避し、満点(33.0/33点、レベル5/5)を獲得しました。ストップ&ゴーが連続する週末の渋滞時や、幹線道路でのうっかりとした追突リスクを大幅に軽減してくれます。
また、日本特有の事故要因として問題視されている「ペダル踏み間違い防止」の評価においても、確かな実力を示しています。特にバック(後進)時の加速抑制テストでは、障害物に対して超音波センサーがしっかりと働き、完全に衝突を回避(1.0点満点)しました。これに加え、後方視界情報提供システム(バックカメラ)のテストでも、近接から遠方までカーナビゲーションモニターに周囲の状況が適切に表示され、6.0/6点満点を獲得しています。駐車場での車庫入れや、死角の多い路地からの後退が苦手な方にとって、確かな安心材料となります。
さらに、万が一の事故の際にも、前席の乗員を守る能力が極めて高いことが実証されています。交差点での出合い頭の事故などを想定した「側面衝突テスト(時速55km)」では、運転席のダミー人形へのダメージがほぼ皆無に近く、11.83/12点(98.6%、レベル5/5)という満点に近い成績を収めました。それに加え、追突された際の首への負担(むち打ち)を計測する「後面衝突頸部保護テスト」においても、運転席・助手席ともに11.05/12点(レベル5/5)と最高評価を獲得。日本の道路で最も発生頻度が高いとされる追突事故において、乗員の首回りをしっかり保護するシート設計がなされていることが分かります。車外の歩行者に対する保護性能も優秀で、万が一歩行者と接触してしまった際、歩行者の脚部へのダメージを軽減するバンパー構造が機能し、脚部保護性能テストでは4点満点(レベル5/5)を達成しています。
自動車安全性能2020試験映像:スズキ ハスラー
出典:ナスバ((独)自動車事故対策機構)
購入前に知っておくべきハスラーの「注意点と弱点」
一方で、テストデータからは購入前に必ず知っておくべき、いくつかの明確な弱点も浮き彫りになっています。
最も注意が必要なのは、後席(2列目)の乗員保護性能です。時速64kmで車体の前部一部を衝突させる「オフセット前面衝突テスト」において、公式資料には極めて重要な注意書きが存在します。衝突の衝撃によって後席のダミー人形を固定しているシートベルトが肩から上腕部付近にずれ上がってしまい、その結果、胸部への負荷(胸部変位量)が大きくなるおそれがあると明確に指摘されています。事実、このテスト項目における後席の胸部保護スコアは「0点(0.00/4.00点)」となっており、後席の保護レベルは3/5にとどまっています。もしお子様やご家族を後席に頻繁に乗せる機会が多い場合は、この物理的な特性を理解し、同乗者の着座姿勢に気を配るとともに、より慎重な速度コントロールを心がける必要があります。
また、ペダル踏み間違い防止機能についても、前進時のテストでは完全に停止しきれず、障害物に接触している(回避可否:速度軽減、評価点0.6/1.0点)というデータが出ています。後退時は完璧に止まる一方で、前進時は「衝突の衝撃を和らげる」程度にとどまるケースがあるため、システムを過信することは禁物です。
さらに、予防安全システムにも環境による限界が見られます。ステレオカメラによる歩行者検知は昼間や街灯のある夜間では高い効果を発揮しますが、「街灯のない真っ暗な夜間」のテストでは、時速40km以上の速度域において歩行者への衝突を回避しきれず、接触してしまうケース(回避可否:速度軽減)が多発しており、スコアも7.19点へと大幅に低下しています。深夜の郊外の道などでは、自動ブレーキに頼り切らないドライバー自身の目視と確実な減速が不可欠です。
加えて、シートベルトリマインダー(警告装置)の評価では、後席の警報機能が十分な得点を得られず、全体で1.50/3.6点(レベル1/5)にとどまっています。高速道路などで車線をはみ出しそうになった際、音と表示で警告する機能(LDWS)は確実に作動しますが、ハンドルを自動で操作して車線内に戻してくれるステアリング支援機能(LDP/LKA)は搭載されていません。そして、万が一の深刻な事故に遭遇した際、自動でオペレーターに繋がる「事故自動緊急通報装置(SOSコール)」も装備されていない(0/8点)ため、緊急時の初動対応はドライバー自身で携帯電話等を用いて行う必要があります。
編集長の視点:ハスラー
スズキ・ハスラーの安全性能を客観的な指標で評価しようとするなら、同クラスのライバル車との比較は避けて通れない。直接的な競合となるダイハツ・タフト(2020年度評価・星5)や、軽ハイトワゴンのホンダ・N-WGN(2019年度評価・星5)と並べてみると、総合得点においてハスラー(星4)は一歩譲る結果に終わっている。ただし項目別のスコアを細かく見ていくと、話はそう単純ではない。前席における側面衝突や後面衝突の乗員保護性能は、ライバル車と同等かそれ以上の最高水準を確保しているのだ。このあたりのデータからは、総合点というスペック上の見栄えを追いかけるのではなく、日常の市街地走行で最も発生頻度が高い事故形態において、主に乗車する前席乗員を確実に守るという、スズキらしい実用主義的な設計思想が透けて見える。
この前席における高い乗員保護性能は、スズキの軽量高剛性プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」がうまく機能している結果と見ていいだろう。側面衝突テストで満点に近い評価を得ているのは、BピラーやサイドシルまわりへのHigh超高張力鋼板の最適配置によって、軽自動車特有の短いクラッシャブルゾーンを骨格全体の変形でカバーするエネルギー吸収構造が確立されているからだ。満点評価を獲得した後方誤発進抑制機能についても同様で、後方監視に高価なミリ波レーダーを使うのではなく、近接距離の障害物検知に強い超音波センサーをバンパーに仕込むことで、コストを抑えつつ日常の駐車シーンでの事故リスクをきちんと減らす、なかなか合理的なアプローチが採られている。
一方で、オフセット前面衝突テストで浮き彫りになった後席の胸部保護スコアの低下やシートベルトのずれについては、軽SUV特有のパッケージングが影を落としている可能性が高い。広大なスライド機構やフルフラット化など、多彩なシートアレンジと車内空間の拡張性を優先した結果、衝突時に後席乗員を適切に拘束するためのジオメトリ(シートベルトの角度配置)まで最適化しきる余裕がなかった、というのが実情だろう。暗闇での歩行者検知能力の低下や、前進時の踏み間違い防止機能のスコアが伸び悩んでいる点も同じ文脈で説明がつく。限られた原価の中で採用されたステレオカメラシステムには、ハードウェアとしての処理能力の壁がやはり存在するということだ。
総じてハスラーの安全性能は、厳しいサイズとコストの制約の中で実用域の保護性能を高めた、なかなか筋の通った設計だと言える。ただしドライバー側も、居住性と引き換えになった後席の物理的な特性や、センサーが抱えるシステム上の限界を頭の片隅に置いた上で、このクルマと付き合っていく必要があるだろう。
スズキ ハスラーのJNCAP テスト結果データ
日本基準(NASVA / JNCAP)
| 総合評価 | ★★★★☆ 77% (146.93 / 190点) |
| 衝突安全性能 | Bランク 77% (77.41点 / 100点) |
| 予防安全性能 | Bランク 84% (69.52点 / 82点) |
| テスト実施年度 | 2020年度 |
※注:本車種は日本国内専用モデルのため、Euro NCAP(欧州)やIIHS(米国)などの海外機関での衝突試験は実施されていません。
※注:評価データおよび考察はNCAP試験当時のものです。安全装備の性能は随時アップデートされるため、最新情報は必ずメーカー公式サイトにてご確認ください。
